猫はその生涯に、約150匹以上の子猫を出産すると言われています。
1年に出産の季節は約2.5回あり、平均として1回の出産に3~5匹が産み落とされます。
1歳から雌の猫は出産できるようになり、年齢の増加と共に1回で生まれる子猫の数も増えていくのだとか。(参照元:http://www.nekohon.jp)
命を次につなげる生命の働きは、尊いものです。
しかし、人間社会の中では、この猫の繁殖力が「野良猫問題」としてしばしばやり玉にあげられます。
どんな猫でも、猫は可愛い・・・そう思う人間ばかりではないのが現実です。
飼い主のいない野良猫たちは避妊手術や去勢手術を受ける機会がなく、繁殖のシーズンが来るごとに出産し、野良猫の数も増えていきます。
そして、何十匹もの野良猫たちが毎日殺処分を受けているのです。(参照元:https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html)
この流れを止めるべく、今日本中で野良猫を「地域猫」にしようという新しい動きが始まっています。
これは、地域住民とボランティア団体が連携して、その地域を住処とする猫たちのお世話をし、「地域猫」として地域全体で見守っていこうという画期的な取り組みです。
徐々に認識が広がっているこの「地域猫」について、紹介したいと思います。

「地域猫」とは?
「地域猫」という概念は、1997年神奈川県横浜市磯子地区の住民が、協力して野良猫のお世話をし始めたことによって生まれました。
餌や猫トイレの掃除、手術による繁殖の抑制など、不幸な野良猫をこれ以上増やさないようにという目的のために行われたこの運動は、その後またたく間に全国へと広がりました。

地域猫の定義は、「その猫が住んでいる地域の複数の住民の認知と合意のうえ世話をされ、管理されている猫」と言われています。
具体的にはボランティア団体や地域住民によってエサ場や猫トイレの設置、清掃、繁殖防止の避妊手術、去勢手術などが行われています。
これらの一連の働きは、エサやりの時間を決める、場所を決めて後始末もする、飼育責任者を明確にする、など細かいルールの上で行われています。
このルールを守ることが、地域猫を守る上でとても大切なのです。
ルールを守って猫を管理することで、地域猫の存在は、より多くの人に認めてもらえます。
裏を返せば、これらのルールを守らないと、猫を良く思わない他の地域住民との摩擦を引き起こすことになりかねません。
地域猫を守る人々には、対猫だけでなく、対人間への配慮も同時に求められます。
説明会を開いたり、住民同士の話し合いの場も持つなど、より多くの住民に理解してもらうため努力が続いています。
避妊・去勢手術を終えた猫たちの片耳は写真のように小さくカットされています。
その形が桜の花びらを思わせることから「桜耳」と呼ばれていて、この桜耳はその猫が人間によって見守られていることの証でもあるのです。
広がる地域猫の取り組み
地域猫の取り組みの全ては猫の殺処分を減らすためです。
避妊・去勢手術をしないために野良猫の数が増えてしまったり、エサを求めてゴミを荒らす、ふん尿をする等の問題は、猫の習性であり、猫たちに悪気があるわけではもちろんありません。
これらの被害を受けた住民達は、いない飼い主相手に文句が言えるわけは無く、怒りが猫たちへと向いてしまいます。
保健所に持ち込まれ、失われていく命を減らすためには、新たな繁殖を防ぎ、一代限りの猫の命を地域住民に認められ、受け入れられることがとても大切なのです。
地域猫の取り組みは広がり、市区町村によっては避妊・去勢手術を行う際に助成金が出るところもあります。
飼い主のいない猫の多い東京23区内では、ほぼ全ての区で助成制度を受けることができます。
港区では飼い主のいる、いないに関わらず雌一匹につき8000円、雄一匹につき5000円を上限として助成金が支給されています。
場所によっては、登録されているボランティア団体にのみ助成金が出る場合もあるので、住んでいる市区町村のウェブサイトをよく調べてみましょう。
また、市区町村とは別に、個別で助成金制度を作っている基金もあります。
「公益財団法人どうぶつ基金」は1988年の設立以降、犬猫の殺処分ゼロを目指して活動を続けています。
どうぶつ基金のウェブサイトでは猫の不妊手術についての詳細や、現在の殺処分の状況など、細かく分かりやすく書かれています。(参考元:公益財団法人どうぶつ基金)
残る問題点
全国に広がりつつある地域猫への取り組みですが、それでもやはり問題点は残ります。
それは地域猫の認知度の低さと、圧倒的な野良猫の多さです。
どんなに避妊・去勢手術を進めても、どうしても取りこぼしが出てしまい、手術されなかった野良猫がまた4匹出産して・・・と、いたちごっこのようになってしまうケースがあります。
餌場やトイレの場所を決めても、野良猫全員がそこでするわけではなく、住民の庭や住居スペースでしてしまうこともあります。
定期的に人間が餌を用意することで、他の地域から野良猫が来てしまい、かえって地域の野良猫が増えてしまう、という場合もあるのです。

(画像引用元:http://www.photo-ac.com/)
人間に世話をされ、人間に慣れた野良猫は警戒心が低く、人間になつきやすくなります。
可愛がられれば良いのですが、地域猫の取り組みに否定的な人間によって、虐待されてしまう、などという痛ましい事件も報告されています。
猫は人間に悪さをするつもりは微塵もなく、どの問題も猫の生態や本能によってのものですが、全ての人間がそれを理解しているわけではありません。
猫と人間の共存にはまだまだ乗り越えなければいけない壁が残っているのです。
まとめ
地域住民とボランティアが、その地域に住む飼い主のいない猫を守り、管理し「地域猫」として関わっていく、という新しい取り組みが全国で起こっています。
しかし野良猫の多さや、地域猫に反対する地域住民との対立など、問題はまだ残っているのが現状です。保健所に送られる猫を少しでも減らすため、今ある問題を無くそうと多くのボランティア団体や住民が奮闘しています。